2007年09月09日
連載小説『東京堕天使〜マリアと下僕たち〜』
第11回最終章・清算される過去…編その1『無罪モラトリアム〜僕はここにいる〜』
全ては快人のシナリオ通りだった。ライブのスタッフを買収し、リハーサル中にマリアのワイヤーを切れやすいように加工。マリアは目論み通り転落し、ステージには茜が立った…快人はもはや、茜を『メジャーにすること』だけにこだわっていた。
マリアを茜にしたてれば…その人気が持続すれば…茜はマリアになれる。立川麻美さえいなければ…
その試金石になったのが今回のツアー。茜は見事に代役をこなし、マリアになった。快人は更に、その先のシナリオを描いていたのだろうか…
「マリアさんが…殺された?!」
12月20日、横浜アリーナでのライブ終了後。楽屋に戻った茜の元に、日野から衝撃の連絡が入った。
「…殺されたまでは言ってないだろう…何でも、自宅近くの公園で体を何ヵ所も刺されて倒れていたのが発見されたらしい。…出血がひどく、危険な状態だそうだ。病院の場所を教えるから、茜君もすぐに来てくれ!」
いても立ってもいられなくなった茜は、電話を切るなり楽屋を飛び出した。
(まさか…マリアさんがこんなことになるなんて…)
病院に向かう途中、罪悪感にも似た寒気を感じた。
(…私が思い上がってマリアさんを邪険にしてしまったから…こんなことに…どうしよう…)
また、所々に快人の顔も頭に浮かんだ。
(快人さんもマリアさんをよく思っていなかったはず…まさかこの件に絡んでいるんじゃあ…)
様々な不安が茜の体を駆けめぐる。だが、横浜アリーナは新横浜、マリアのいる病院は葛西。その道のりは遠い…
(お願い…早く着いて…!)
全ては快人のシナリオ通りだった。ライブのスタッフを買収し、リハーサル中にマリアのワイヤーを切れやすいように加工。マリアは目論み通り転落し、ステージには茜が立った…快人はもはや、茜を『メジャーにすること』だけにこだわっていた。
マリアを茜にしたてれば…その人気が持続すれば…茜はマリアになれる。立川麻美さえいなければ…
その試金石になったのが今回のツアー。茜は見事に代役をこなし、マリアになった。快人は更に、その先のシナリオを描いていたのだろうか…
「マリアさんが…殺された?!」
12月20日、横浜アリーナでのライブ終了後。楽屋に戻った茜の元に、日野から衝撃の連絡が入った。
「…殺されたまでは言ってないだろう…何でも、自宅近くの公園で体を何ヵ所も刺されて倒れていたのが発見されたらしい。…出血がひどく、危険な状態だそうだ。病院の場所を教えるから、茜君もすぐに来てくれ!」
いても立ってもいられなくなった茜は、電話を切るなり楽屋を飛び出した。
(まさか…マリアさんがこんなことになるなんて…)
病院に向かう途中、罪悪感にも似た寒気を感じた。
(…私が思い上がってマリアさんを邪険にしてしまったから…こんなことに…どうしよう…)
また、所々に快人の顔も頭に浮かんだ。
(快人さんもマリアさんをよく思っていなかったはず…まさかこの件に絡んでいるんじゃあ…)
様々な不安が茜の体を駆けめぐる。だが、横浜アリーナは新横浜、マリアのいる病院は葛西。その道のりは遠い…
(お願い…早く着いて…!)
「…マリアさん…」
11時20分、茜が横浜アリーナを出て1時間40分後。ようやく『葛西中央病院』に到着し、病室のベッドに横たわるマリアと再会することができた。
病室は個室で、日野がずっと看病についていた。
「やぁ茜君。よく来てくれたね。今さっき手術が終わって、この病室に運ばれて来た所だよ」
「それで…容態は…」
「うん、手術も無事に済んで、命がどうこう…という状態は免れたそうだ」
「!良かったぁ…」
茜はホッと肩を撫で下ろした。
「…でも…」
「どうした?」
「…一体誰がこんなことを?」
茜と日野は顔を見合わせた。
実際、目撃者はおらず、たまたま公園通りがかった人が血まみれになって倒れていたマリアを発見したという。
体にはいくつもの刺された跡。そして、その現場はマリアの自宅そば…これは、マリアをよく知っている者の犯行としか思えない。
「…もしかしたら…」
茜の頭の中には、やはり快人の顔が浮かんでいた。ライブ前、茜がマリアとしての活動を続けたいと言った時、その要望に応えられるようにする…というようなニュアンスの発言をしていたから…
(でもそれも、私がマリアさんであり続けたい…と言ったからだわ…私さえもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに!)
茜に取り憑いた『魔物』はすっかり去っていた。罪悪感と、重傷のマリアと引き換えに…
「茜君どうした?犯人に心当たりがあるのかね?」
「…もしかしたら…あの人かも…」
茜が言葉を続けようとした時、突然病室のドアが開き、快人が入って来た。
「…快人さん!」
「…遅くなってすまない…マリアが…刺されて重傷なんだって?」
快人は汗だくで、息を切らさんばかりな状態だった。本当にこの男がマリアを刺したのだろうか…体には血糊等は付いておらず、一見した所、それらしき様子はない。
「く…久地君!どうしてここへ?よくここが分かったな」
「いや社長、ライブが終わった後、帰りの車の手配や打ち上げの場所のチェックをするんでちょっと出ていて…楽屋に戻ったら茜君がいなくて…スタッフに何処へ行ったか聞いたら、この病院だって言ってたんで…」
本当のことだろうか…茜は疑いの目でじっと見た。
「?どうした?茜君」
「いや、別に…マリアさんを刺した犯人がまだ見つかってなくて、警察が言うには、犯人はマリアさんを良く知った人じゃないかって話で、一体誰かな…と考えていたんです」
「…そうだったか…なるほど…」
『あなたを疑っている』と遠回しに告げた茜だが、快人は取り合おうともしない。
しばらく考え込んでいたが、急に手を打ち、
「社長、この事件はまだマスコミに洩れていないんですか?」
「え?あ…ああ。発生からまだ間もないので、どこにも知られていないはずだ」
快人はにやりと笑い、「…なら、犯人を割り出す方法はあります!」
「?!一体どんな…」
二人は快人に注目した。
「簡単なことです。この件はどこにも発表せず、4日に予定されている、武道館での最終ライブを行うんです」
「?それだけ?それだけで分かるのか?」
「えぇ。…この事件はマリアの自宅近くで発生し、しかも、全国ツアーラスト直前に起きた…これはもう、マリアをよく知っている者でこのツアーの重要性を知っている者…尚、マリアの活躍を快く思っていない者の犯行に間違いありません。きっとマリアの活躍を妬ましく思い、全国をパニックにしてやろうと犯行に及んだんでしょう…犯人は今頃、明日の新聞の一面に『マリア死亡、ライブ中止』の記事が載ることを楽しみに待っていることでしょう…」
「なるほど。それを逆手に取り、何事もなかった様にライブを行えば…」
「自分の殺したはずのマリアがライブを行っている…十中八九、確認に来るでしょうね…」
果たして本当にそうだろうか…茜はまだ快人を疑っていた。
「…やってみる価値はあるな。よし。この件は我々だけの秘密にしておき、武道館でのライブは予定通り行う!」
「分かりました(…一体どこの誰がこんなマネを?茜君をずっと、マリアでいさせるシナリオは僕が描いていたのに…まずは犯人を捕まえて、また考え直さないなければいけなくなったじゃないか!)」
(…こんなことを思うのもなんだが、茜君がいてくれて良かった…マリアが本当に殺されたりしていたら…私はもう、立ち直れなかっただろう)
(…快人さんが犯人じゃなかったの?いや…あれが、その場しのぎの言葉だったら…)
12月24日、それぞれの思惑を乗せ、ライブはスタートする!
『太陽が目覚めたら あの海へ行こう』
武道館には厳重な警戒体制が敷かれた。警備員の数を倍に増やし、入場の際には入念な持ち物検査。更に茜や日野、快人といった関係者は常に小型のインカムを装着。会場内で怪しい動きがあれば、すぐに警備員から報告が届く仕組みになっていた。
ライブも5曲目『ドルフィン』を歌いきり、ボルテージも上がってきた。
6曲…7曲…とこなしていき、ライブは順調に進んだ。だが、8曲目に入って少しした時…
『マリアさん、聞こえますか?舞台近く、左袖の所で刃物を持って舞台に近づこうとした男を発見!』
『!!!』
報告が入った瞬間、警備員の言っていた場所が若干ざわついた。が、
『…今犯人を確保しました。ライブを続行して下さい』
『分かりました、ありがとう…』
最後のライブも大入り満員の大盛況。ファンにとっても最高のクリスマスプレゼントとなった。
ライブを終えると、茜は足早に楽屋へ向かった。
楽屋には、捕まった犯人が拘束されている。一体誰なのか?それを知りたい…その一心だった。
楽屋の前に立った時、一呼吸置いてドアを開けた。
その瞬間、縛られた男の姿が目に飛び込んできた。
「!…まさか…そんな…ウソでしょう?…あなたなの?」
茜は犯人を見て、弱々しく座り込んでしまった。その犯人とは…
「…ノブ…!」
悲劇の再会を果たした暢也と茜。二人の上京物語に幕が降りようとしていた…
-続く-
最終回まであと2回!次回最終章・清算される過去…編その2『ウ゛ォイス〜鳥達は南へ〜』は9月16日配信予定!
Posted by 横浜から来た山羊 at 23:11│Comments(0)