2007年08月25日
第5回連載小説『東京堕天使〜マリアと下僕たち〜』
『マリア降臨編その3・僕は君を連れてゆく〜ここではないどこかへ〜』
「…あなた…蓮田曜子のマネージャーって本当なの?!」
7月7日、ホテル『パシフィック』リニューアルのレセプション会場で、茜は蓮田曜子のマネージャーをしていた快人と出会い、思わず立ち上がってしまった。
それも無理はない。暢也を横取りして行方不明にさせている恋敵・曜子に近しい人物に会えたのだから…
「(これは…思った以上に大きな反応だ。上手く曜子の話をまいて行けば、この娘を誘い込めるかも…)もちろん。彼女のスケジュール管理や出演番組の交渉なんかは全部、僕がやっているんだ。…彼女のファンなのかい?」
「…ファン?冗談じゃないわ。私はGanzのボーカル・暢也と付き合っていたのよ。同郷で、一緒に上京して一緒に住んでもいた。それがどういうことか分かるでしょう?あの女のせいで、暢也は最近、家に戻って来なくなって…」
「へぇ…」
その話を聞いた途端、今度は快人の目の色が変わった。
「(なるほど…ということは、彼女もあのFRIDAYの記事を見て、曜子に怒りを覚えたクチか。…これは使わない手はない)じゃあ…」
と、快人が話そうとした時、
「お待たせ致しました」
ホテル『パシフィック』のオーナーであり、このレセプションの主催者である日野恭彦と見られる男がビアガーデンの奥から登場した。
背が高く、髪は黒髪長髪、黒いスーツに身を包んだ日野からは、威厳というか雰囲気が感じられる。
会場にいる人々の注目は彼に集まった。
「皆さん、今日はお忙しい中お越し頂いて本当にありがとう。『パシフィック』のオーナー・日野です。このホテルは見ての通り、すぐ横にマリンタワーがあり、目の前には山下公園という最高のロケーションです。今夜はそんな夜景と共に、皆さんの舌も満足させられるような、最高の料理も用意しています。是非楽しんで頂きたい」
「…あなた…蓮田曜子のマネージャーって本当なの?!」
7月7日、ホテル『パシフィック』リニューアルのレセプション会場で、茜は蓮田曜子のマネージャーをしていた快人と出会い、思わず立ち上がってしまった。
それも無理はない。暢也を横取りして行方不明にさせている恋敵・曜子に近しい人物に会えたのだから…
「(これは…思った以上に大きな反応だ。上手く曜子の話をまいて行けば、この娘を誘い込めるかも…)もちろん。彼女のスケジュール管理や出演番組の交渉なんかは全部、僕がやっているんだ。…彼女のファンなのかい?」
「…ファン?冗談じゃないわ。私はGanzのボーカル・暢也と付き合っていたのよ。同郷で、一緒に上京して一緒に住んでもいた。それがどういうことか分かるでしょう?あの女のせいで、暢也は最近、家に戻って来なくなって…」
「へぇ…」
その話を聞いた途端、今度は快人の目の色が変わった。
「(なるほど…ということは、彼女もあのFRIDAYの記事を見て、曜子に怒りを覚えたクチか。…これは使わない手はない)じゃあ…」
と、快人が話そうとした時、
「お待たせ致しました」
ホテル『パシフィック』のオーナーであり、このレセプションの主催者である日野恭彦と見られる男がビアガーデンの奥から登場した。
背が高く、髪は黒髪長髪、黒いスーツに身を包んだ日野からは、威厳というか雰囲気が感じられる。
会場にいる人々の注目は彼に集まった。
「皆さん、今日はお忙しい中お越し頂いて本当にありがとう。『パシフィック』のオーナー・日野です。このホテルは見ての通り、すぐ横にマリンタワーがあり、目の前には山下公園という最高のロケーションです。今夜はそんな夜景と共に、皆さんの舌も満足させられるような、最高の料理も用意しています。是非楽しんで頂きたい」
日野の挨拶が終わると、会場はまた歓談に入った。日野はそのまま、快人の前の席に座った。
「やぁ…久地君。久しぶりだ。よく来てくれたね」
「社長こそ、よく僕のことを覚えていてくれましたね…感謝してます」
二人は面識があるらしく、固い握手を交わした。
「それで…だ。久地君、ここに来てくれたということは…私のオファーを受け入れてくれた、と解釈していいのかな?」
「ええ…もちろん私もそのつもりでここへ来たんです。…ただ…」
「ただ?」
「一つ、条件があります」
快人は茜に目を向けた。
「…彼女をあなたの事務所『アーティストハウス』のタレントとして雇用してほしい。僕はそのマネージャーとして現役復帰をしたい」
快人の言葉で、3人の視線は茜に集中した。とりわけ日野は視線を外さず、じっと目を見ていた。しばらくして、快人の方に目を向けて、
「…彼女と君の関係は?」
「…正直言って、今日、いや今ここで会ったばかりです。…でも…何か感じるものがあるんです。…曜子を初めて見た時もそうだった…その結果がどうなったか、社長もご存じなはずです。…むしろ、それを知っているからこそここに呼んで頂いたんでしょう?」
快人は自信満々に言い放った。
「確かにその通りだ…この仕事には直感が大切だ。私ももう何人もスカウトして来たが…やはり成功している人間は、直感的…いや第一印象と言うべきか。一目見て、いいなと思う者たちばかりだ」
「…今活躍中のマリアというアーティストも、その1人ですか?」
「…さすがに分かっているな、久地君。その通りだよ。彼女も私が直接スカウトした1人だ。一目見た時から、可能性を感じていた…活躍中というが、まだまだ物足りない。彼女はいずれ、日本中を魅了するポテンシャルを秘めている」
「…だったら、僕の申し出を断る理由はないのでは?…彼女を大きくしてみせますよ」
快人の目的は、マネージャーとしての復帰・茜の大成だけではなかった。一番の理由は、自分に見下判を突きつけた曜子を見返すこと。現役復帰し、茜を曜子よりもより有名に、より人気あるアイドルにする。そして曜子を自分の足元にひれ伏させる、というシナリオを描いていた。
日野もにやりと笑い、
「大した自信だね…なるほど確かに、あの蓮田曜子を発掘しプロデュースした眼力と手腕は私も認めている。君が彼女に蓮田君に匹敵するポテンシャルを見い出したとするなら…彼女の採用を認めよう。ただ…」
「ただ?」
「我々の今の話は、当事者である彼女を置いてきて進めているのではないかね?…君の名前は…」
「鹿島田茜といいます」
「そうか。この鹿島田君の意志が、話題の中に入っていない。…君は…久地君のオファーに対し、どう思っているんだ?」
再び皆の視線が茜に注がれた。
「…私…」
余りにも突飛な話だし、芸能界に入ろうなどと思ったこともない。本来ならすぐに断る話なのだが、今回は葛藤があった。
快人は曜子の元マネージャーで、曜子の動向を知っている…それに付随して、暢也の居所も掴んでいるかもしれない。
そして日野は…ファンであるマリアが所属する事務所の社長だという。この話を受け入れれば、彼女とお近づきになれるかもしれない…更に更に、快人はマネージャー(プロデューサー?)としての手腕は一流という。
(その彼が、私を推してくれている…芸能界なんて考えてもいなかったけど、もしかしたら………もしかする…のかも…)
「さぁ鹿島田君、君の意向は…?」
「……私…私は…」
7月7日、七夕。織姫は会うべき彦星と出会えず、新たな彦星と出会ってしまったため、2人のドラマは更に混迷を深めていく…
-続く-
「やぁ…久地君。久しぶりだ。よく来てくれたね」
「社長こそ、よく僕のことを覚えていてくれましたね…感謝してます」
二人は面識があるらしく、固い握手を交わした。
「それで…だ。久地君、ここに来てくれたということは…私のオファーを受け入れてくれた、と解釈していいのかな?」
「ええ…もちろん私もそのつもりでここへ来たんです。…ただ…」
「ただ?」
「一つ、条件があります」
快人は茜に目を向けた。
「…彼女をあなたの事務所『アーティストハウス』のタレントとして雇用してほしい。僕はそのマネージャーとして現役復帰をしたい」
快人の言葉で、3人の視線は茜に集中した。とりわけ日野は視線を外さず、じっと目を見ていた。しばらくして、快人の方に目を向けて、
「…彼女と君の関係は?」
「…正直言って、今日、いや今ここで会ったばかりです。…でも…何か感じるものがあるんです。…曜子を初めて見た時もそうだった…その結果がどうなったか、社長もご存じなはずです。…むしろ、それを知っているからこそここに呼んで頂いたんでしょう?」
快人は自信満々に言い放った。
「確かにその通りだ…この仕事には直感が大切だ。私ももう何人もスカウトして来たが…やはり成功している人間は、直感的…いや第一印象と言うべきか。一目見て、いいなと思う者たちばかりだ」
「…今活躍中のマリアというアーティストも、その1人ですか?」
「…さすがに分かっているな、久地君。その通りだよ。彼女も私が直接スカウトした1人だ。一目見た時から、可能性を感じていた…活躍中というが、まだまだ物足りない。彼女はいずれ、日本中を魅了するポテンシャルを秘めている」
「…だったら、僕の申し出を断る理由はないのでは?…彼女を大きくしてみせますよ」
快人の目的は、マネージャーとしての復帰・茜の大成だけではなかった。一番の理由は、自分に見下判を突きつけた曜子を見返すこと。現役復帰し、茜を曜子よりもより有名に、より人気あるアイドルにする。そして曜子を自分の足元にひれ伏させる、というシナリオを描いていた。
日野もにやりと笑い、
「大した自信だね…なるほど確かに、あの蓮田曜子を発掘しプロデュースした眼力と手腕は私も認めている。君が彼女に蓮田君に匹敵するポテンシャルを見い出したとするなら…彼女の採用を認めよう。ただ…」
「ただ?」
「我々の今の話は、当事者である彼女を置いてきて進めているのではないかね?…君の名前は…」
「鹿島田茜といいます」
「そうか。この鹿島田君の意志が、話題の中に入っていない。…君は…久地君のオファーに対し、どう思っているんだ?」
再び皆の視線が茜に注がれた。
「…私…」
余りにも突飛な話だし、芸能界に入ろうなどと思ったこともない。本来ならすぐに断る話なのだが、今回は葛藤があった。
快人は曜子の元マネージャーで、曜子の動向を知っている…それに付随して、暢也の居所も掴んでいるかもしれない。
そして日野は…ファンであるマリアが所属する事務所の社長だという。この話を受け入れれば、彼女とお近づきになれるかもしれない…更に更に、快人はマネージャー(プロデューサー?)としての手腕は一流という。
(その彼が、私を推してくれている…芸能界なんて考えてもいなかったけど、もしかしたら………もしかする…のかも…)
「さぁ鹿島田君、君の意向は…?」
「……私…私は…」
7月7日、七夕。織姫は会うべき彦星と出会えず、新たな彦星と出会ってしまったため、2人のドラマは更に混迷を深めていく…
-続く-
Posted by 横浜から来た山羊 at 17:21│Comments(0)